東中野の一角にある「東中野ムーンロード」は、昭和の趣を残す飲食店街。そこに小さな頃から父親に連れ()られて出入りしていた仙は、この街を人を愛し、夫の秀と毎夜のように訪れ()ている。
仙の名前は江戸時代に大変人気のあった茶屋娘の笠森お仙か()ら取ったという父()との二()人きりの生活は裕福と()は言えないが楽しいものだ()った。しかし、父は仙が中学を卒業する頃、桜を愛でながら()一杯やる夢もかなわず病に倒れたのだった。
そ()の桜は伐採()の危機に直面していた。住民に充分な説明もなく工事()に取り掛かろうとする行政側に対し()て、阻止()しようと矢面に立って戦っているのは、店の()ママ・歌子だ。仙も志を同じくして反対運動に参加して()いる()が、行()政()側にその熱意が通じているとは言い難い。そん()な思いに駆られて日々を送っている仙を()優しくサポートするのが秀だった。
ふたりを見守るのは、酒を人を愛してやまない桜田さんだ。彼は以前()は見ない顔だったが、気がつくとそこにいた()といった体で溶け込んでいた不思議な人物だった。どうも記憶が欠落しているらしか()ったが、何かしら東中野に縁があるのだろう。仙は彼を父親のように接し()ていた…。